仕事を終え、スマホの着信メールに気付いた。

 差出人「尾崎群司」、ぐんちゃんからだ。

 何だろう、珍しい。
 件名「お時間いただけますか?」、相変わらずかしこまっている。

 ぐんちゃんはテレビでは丁寧、透琉くんには乱暴、他人には無口、私には敬語。
 私のほうが年上だからか、呼び方もずっと「菜々香さん」で通してくれている。

 もっと砕けてくれてもいいのに、決して砕かないぐんちゃんの態度に、やっぱり嫌われているのかなあと凹んだときもあったけれど、「菜々香さん」が定着してしまった今や、この距離感がちょうどいい。


 メールを開くと、以下の文章が綴られていた。

「お疲れ様です。尾崎です。平日のお忙しい時間帯にすみません。
透琉のことで、菜々香さんにご相談があります。
急で申し訳ありませんが、今日の二十時頃、お会いできないでしょうか?
個室でお店を予約しますので、食事しましょう。
マネージャーの永原も同席しますので、どうぞご安心ください」

 ざっと目を通したあと、二度読みした。
 えっ、いったい何ごと?

 透琉くんのことで「ご相談」というワードも気になるし、「食事しましょう」?

 透琉くん抜きで、ぐんちゃんと会うのは多分初めてだ。
 けど、二人きりじゃないらしい。

 マネージャーさんも一緒か。
 と、ちょっとほっとする私の事情を見越しているような、「どうぞご安心ください」がぐんちゃんらしくて、苦笑する。