菜々香、と名前を呼ばれてはっと身構える。
 すっと伸びてきた透琉くんの両手が、両頬に添えられる。

 シャワーを浴びた直後だからか、掌があったかい。包まれた皮膚から、じんわりと伝わってくる熱。
 優しく引き寄せられて、そっと慎重に鼻先が触れる。
 そして角度を変えながら、愛しい唇が囁く。


「菜々香、すごく会いたかった。来てくれて嬉しい」

「私も……」

 会いたかったと続けようとした言葉は、キスによって塞がれる。
腰かけているダブルベッドに、ゆっくりと押し倒されようとしていることに気づいて、慌てて流れに逆らう。

「やっ、だっ……」

「何で? 嫌?」

 首を傾げる透琉くんの、切なそうな、フェロモン総発動の表情にドキッとする。
 年下っぽく甘えてみたり、年下だということを忘れそうになるほど大人っぽかったり、くるくる変わる透琉くんの表情に、いつだって見惚れてしまう。

「っていうか、ちょっとストップ。タンマっ」

 透琉くんとぐんちゃんがふざっけっこしてるときによく使う「タンマ」は、ちょっと待ってという意味らしい。
 二人以外に使ってる人はいなくて、流行らそうとしているのかと思ったけれど、テレビ用じゃないらしい。
 日常的によく言う。

「タンマ? 何なに、バリア張っちゃう?」

「シャワー浴びてくる」

「いーのに、このままで。石鹸の香りより、体臭のほうが興奮する」

 けろっと変態的なことを言う透琉くんに若干引くと、慌てて補足された。

「ただし菜々香に限る、だからね?」