「そーんなこと言ってもさあ、なーなかちゃん。バラエティ収録ってのは、時間が決まってて決まってないようなもんだし。五時間喋って、使われんの五分とかザラじゃん。でもその五分のチャンスが得られるなら、後の四時間五十五分も全然無駄じゃないって俺は思ってる。分かる?」

 ボケ担当といっても天然系でもなければ、おっとり系でもない透琉くんは、高速回転の舌でよく喋る。
 滑舌が良すぎて、ちょっと腹立つ。

 さすが口の上手い透琉くんは、都合の悪い話になるとするすると議論をすり替えていくのが得意だ。


「むうん、それは分かるけど。でもでも、トイレ休憩とかはあるよね? 一言、メールくらいくれても良くない? 透琉くんが来るっていうから待ってたんだよ」

 昨日は土曜日。会えるのは深夜になるかもしれないとは聞いてたけど、深夜どころか一夜明けて今は日曜の正午。
 聞けば、朝の四時に帰ってそのままバタンキューしたそうだ。


「トイレ休憩でも、仕事中は仕事。それに朝の四時にメールするのもどうかと思うじゃん」

「連絡もなしに、約束ブチる方がどうかと思うよね」

「菜々ちゃん、返し上手くなったね」

「茶化さないで」

「茶化してない、誉めてんの。それに約束破ってないもん。遅くなったけど来たもん」

 あー言えば、こう言う。透琉くんの減らず口。
 どうせ言い合いで勝てないのは分かってるから、むうんと唇を尖らせた。

 私のふて腐れた顔を見て、透琉くんがふわりと微笑む。

 ルーズで減らず口な透琉くんだけど、どうにも憎めないのは、多分持って生まれた天性の「憎めなさ」だ。愛嬌がいいというか何というか。
 本気で怒っても仕方がないなあ、と思わせる雰囲気を透琉くんは纏っている。

 それに見た目がズルい。

 気の強い内面とは真逆な、ふわっとした外見。
 ゆるふわな髪の毛に、穏やかそうな眉、優しげな瞳。厚みのある柔らかい唇。

 それがむちゅっと私の唇に押し当てられた。

「ごめんね、菜々ちゃん。ご機嫌直して」