「新しい毎日を、透琉くんと生きていきたいです。大好きです。私と、結婚してください」

 まっすぐ透琉くんの目を見て、凜として格好良く言おう。
 そう思っていたのに、何度も脳内シミュレーションをしたのに、緊張のあまり泣きそうになる。

 人生に於いてこんなにも緊張する瞬間があるなんて、想像を絶した。
 これを全国放送でやってのけて、日本中の人に笑われてしまった透琉くんの気持ちが、今ちゃんと分かった気がする。

 こんなに振り絞った勇気を、受け止めてもらえなかったら、臆病にも慎重にもなるよ。
 自信なんか、ない。

 透琉くんは、黙って片手を上げた。
 そして自分の頬をつねって、目を瞑り、顔を歪めてまた目を開けた。

「はい、喜んで」

 まるで棒読みでそう言って、透琉くんは一気に慌てた。

「えっ、えっ、何で、夢じゃないよね!? 菜々ちゃん、俺……えっ、超嬉しいんだけどっ! ちょ、ちょちょ、ちょっと待って……抱きしめても、消えない?」

 あたふたする透琉くんが可愛くて愛しくて、嬉しくて。
 消えちゃわないでと願うのは、私のほうだから。

 躊躇している両腕の間に飛び込んで、ぎゅっと抱きついた。

 固くて温かい胸板から伝わってくる、早鐘のような鼓動。
 世界で一番、愛しい響き。

 ――――を堪能する暇もなく、トントントンというノック音と、ピリリリリというスマホの着信音が聞こえてくるけれど。


「ちょっと、タンマ」

 悪戯っぽくそう笑い、透琉くんは私の顔を引き寄せて、ぴとりと鼻先をくっつけた。
 合図に目を瞑ると、そっと確かめるように唇が重ねられた。

 鼻先をくすぐるアルコールの臭いと、かさついた唇の感触。二日酔いの味。
 あんまりムードはないけれど、世界で一番の幸せを実感する。

 ちゅっとして離れた唇は、今度は深く重ねられる。
 歯列を割って、侵入してこようとする舌先。

 どきりと高鳴った胸に、そろりと手が伸びてきた。
 慌てて飛びのいた。