強い決意を胸に、久遠邸に到着。

 いざ来てみると少し気が怯んでしまうけれど、ええい女は度胸だと覚悟を決めて、インターフォンを鳴らした。


「どちらさん?」

 懐かしい関西弁のイントネーション。雪美さんだ。
 透琉くんと別れた直後に電話で話して以来だ。

「あの、小西菜々香です。透琉くんの……」

「あっ、菜々ちゃん!? うわあ~、お久しぶり。よう来たなあ、ちょっと待ってなあ」

 玄関のロックが解かれ、満面の笑みの雪美さんが出迎えてくれた。

「男ら、急に夜釣り行くいう話になって、出てったとこやから。丁度良かったわ」

「えっ」

 そう言われれば、玄関に脱いである靴が少ないし、とても静かだ。

「お酒飲んで夜釣りって、危なくないですか? 透琉くんは……」

「とーるはおるで。酔い潰れて寝とる。そんなに酔ってんの、あの子だけやから。まあ、うちのおっさんにはたんまり保険かけとるから、大丈夫や」

 冗談めいて笑いながら、雪美さんは自身のお腹をさすった。

「この子が生きていけるくらいは、遺してもらわななあ」

 なぬ? 
 ってことは!?

「おめでたですか!? おめでとうございます! うわあ、雪美さん、ママさん!」

 思わぬグッドニュースに、思わず飛び上がった。
 緊張や何もかもが吹っ飛ぶほど、嬉しいニュースだ。

 大興奮する私に、雪美さんは少し気恥ずかしそうに言った。

「ありがとう」