彼はお笑い芸人さん



「おっけー。俺の声、聞こえる? こちら久遠邸。豪邸よりもしもし~」

 久遠さんち……そうか、定例の焼肉会か。
 酔っ払いテンションの透琉くんに、肩の力が抜ける。酔っ払い相手に、堅苦しく話したってしょうがないもんなあ。

「聞こえます。こちらファミレスより、もしもし~。透琉くん、そんな酔ってて大丈夫? ぐんちゃんも一緒?」

「ぐんじ? 一緒なわけないじゃん。菜々ちゃん、迎えに来て。俺もう、無理。もう飲めない」

 うわー、ほんとに酔っ払いだ。
 私の立場、完全無視。そんな甘えた声で言われましても。

「む、無理だよ。行けないよ」

 久遠さん主催の焼肉会には、他の芸人さんたちも来ているはずだ。
 実際、わいわいやっている声が聞こえてくるし。


「やだ。お断りは受け付けません。来て。会いたい、菜々香。静香は、菜々香の代わりにはなんないの。俺の代わりは? 俺しか、いなくない?」

 めちゃくちゃ自己チューな言い分だ。透琉くんらしい。
 おちゃらけたテンションで、強気を気取って弱気を隠して、それでいてとても熱烈な、透琉くん流の求愛。

“俺しかいなくない?”

 答えは、とっくに分かってる。

「――いない。透琉くんしかいない。胸にどかりと居座ってて、困るよ」