「えっ、な、何でですか!? 冗談ですよねっ?」

 突拍子のない「お願いごと」にぎょっとする私に、透琉くんは深刻そうに眉根を寄せた。

「だって小西さん、見たでしょ。俺のブラ姿。それも、あんな大勢の人の前で……もう恥ずかしくって、お婿に行けないじゃない。だから責任取って、俺の彼女になってよ」

 そう言ってにこっと笑う透琉くんの笑顔は、やっぱり安心感を覚えるほど優しくて、魅力的で、言ってることは無茶苦茶なのに、やけに自信満々なところに惹かれてしまった。
 だから、つい

「はい」

 と答えてしまったのは、きっと一目惚れだ。

 初めて透琉くんが笑いかけてくれたあの瞬間に、きっともう恋に堕ちていたんだ。

 大失敗をして絶望の渦中にいた私を、素敵な笑顔と楽しい喋りで救ってくれた透琉くんは、私の王子様だ。


 早いものであれから一年。

 私だけの特別な王子様だと思っていた透琉くんは、あっという間に有名になって、「笑いの貴公子」と世間に騒がれる存在になった。
 まあ「貴公子」顔なのは、ぐんちゃんの方だけど。


 いつだったか、出会いの日を振り返って、透琉くんが罰が悪そうに言った。

「あの告白って、もしかして脅迫じみてた? 責任取って付き合ってって、今思えば、悪代官みたいなこと言ったよなあ、俺」

「脅迫っていうか、あれじゃナンパだろ。菜々香さん、よくあんな告白でOKしましたよね。こいつ、実はそんなキャラじゃ……」

「あばばばばっブラ男チョーップっ!」

 話に入ってきたぐんちゃんに、胸の前で構えたゲンコツを食らわせる透琉くん。
 なんて子供じみてるんだろう。

「いってえぇーなあ、バカ! チョップはチョキだろ、グーっでチョップって何だよ」

「ナイスツッコミ」

 グッジョブと親指を立て合う二人、ほんとに仲がいい。