「さっきお使い行ってたら、出先でテレビかかってて、たまたま見たんだけど。とーぐんのとーる出てたよ。情報番組のゲストで。公開プロポーズについて聞かれまくってたけど、結局駄目だったっぽいこと言ってたよ。絶対OKでしょみたいなシチュでプロポーズしといて、断られるって、バリウケるよね。可哀想だけど、芸人的にはオイシイよね。ファンも喜んでるだろうし。良かったね」
親切な笑顔を向けられて、顔が盛大に引きつった。
ななな、何だそれえ!
「結局駄目だった」って……え? ちょっと待って。
私、いつ断ったの?
そもそも透琉くん、出直して来てくれてないよね?
この九日間、積もりに積み上げてきた心積もりをどうしてくれよう?
「教えてくれて、ありがとうございます」
引きつる頬肉を持ち上げて笑顔を作ると、森さんは
「こちらこそ。英課長の情報、ありがとうね。攻略してみせるからね」
と小声で耳打ちした。
ふわりと鼻先をくすぐる、フローラルの清楚な香り。
シュシュで一つに束ねた髪の毛に、太フレームの野暮ったい眼鏡。
英課長が「ドジっ娘」が好みだというのを伝えてから、森さんはがらっとイメチェンした。
「鈍くさ可愛い」を目指して、日々精進中だという。
当の課長はと言うと、相変わらず無愛想だし、私への態度もまるで変わらない。
“キスしたときにビビっとくるかどうか……試してみるか?”
あれには超びびったけれど、翌日顔を合わせた課長が、あまりにも普段どおりだったため、引きずっていた自分が馬鹿らしく思えたし。
どいつもこいつも、何なんですかマジで。
人の心積もりを何だと思ってやがんのだ。

