だけど当然、収まったのは「その場」だけで、後で上司に怒られ、展示会の主催側に注意され、会社からこっぴどく叱られた。

 三人の子供たちの親にまで、現場監督不行き届きだと怒られる始末。
 我が子から目を離していた自分たちも悪いが、現場を管理していたあなたがしっかり見ていてくれないと困ると。
 確かにそうだ。

 色んな人に散々怒られたけれど、唯一怒らなかった人がいた。
 一番怒ってもいいはずの、被害者なのに。



「いやぁ、マジでいい経験した」

 上司が慌てて調達してきた服に着替えた透琉くんは、お風呂上りみたいにさっぱりした笑顔を見せた。


「本っ当に、申し訳ございませんでした」

「ううん、逆にラッキー。オイシかったし」

「え?」

 芸人さんがよく言う「オイシイ」という意味らしい。
 透琉くんは本当に嬉しそうに言った。

「俺、アドリブ弱くってさあ。いい練習んなった。つっても、元々ブラ男のネタがあってこそのアドリブだから、どうだったかなあ。繋ぎとか、大丈夫だった?」

「あ、はい、えっと……すごく面白かったです。プロの芸人さん……」

 みたいだと言いかけて、慌てて言い直す。
 さっきお笑いライブの宣伝してたし、プロみたいじゃなくてプロじゃないか!

「なんですよねっ。あっ、五日のライブ、観に行きます」

「えっホント? あっ、でも罪滅ぼしの気持ちで言ってるなら、違うお願いごとがあるんだけど……」

「え?」

 急に神妙な顔つきに変わった透琉くんに、ドキリとした。

「俺と、付き合ってください」