彼はお笑い芸人さん



「あのっ、課長は、婚約者とかいらっしゃるんですか?」

「え?」

 あわわ、ちょっと、いやかなり唐突すぎましたでしょうか。
 露骨に表情を曇らせる課長に、びびる。

 お、怒っちゃいました?
 森さん、ごめんなさい!
 無理に聞き出そうとしなくていいと言ってくれたのに、まんまと下手売っちゃいました!

「そんなことに興味あるのか?」

 すっと温度の冷えた口調に、体感温度が一度は下がる。

「すみません、立ち入った質問を……」

「募集中」

「えっ?」

「結婚相手、募集中。三十二にもなって、決まった相手がいないなんてな。駄目な男だ」

 ふっと自嘲的な笑みを漏らす課長。
 意外だ。恋人がいないことも、こんな風に笑うことも。

「いえっ、全然! 課長、かっこいいですし! 全然駄目じゃないです。理想がお高いんじゃないですか?……ちなみに、どんな女性がタイプとか、ありますか?」

 うん、これは大事なリサーチだ。
 森さん、私グッジョブですよ!

「そうだなあ、強いて言うなら…………あ?」

 パソコン画面を見ていた課長が、ぐっと眉間にしわを寄せた。

「えっ……何か?」

 課長が確認しているのは、私が作った「顧客管理シート」だ。
 どうやら不備があったようだ。
 慌てて席を立ち、課長の隣に立つ。

「この、商品型番……『ks-v1589h』だが、ksシリーズになったのは、一昨年からだろ。五年前の購入記録に記載されてるのは、何でだ?」