透琉くんと付き合っていた頃の私は、どういう心構えで透琉くんを待てばいいのか、どういう風にいれば透琉くんの癒しになれるのかと、そういうことばかり考えていたように思う。
女は港、帰ってきたときに落ち着ける場所でいたいと。
迎えることばかり念頭にあった。
だけど、最後に思ったのは「笑顔で送り出したい」だった。
頑張れって精一杯のエールで、とびっきりの笑顔で。
大切な人が明るい方向を向いて、歩き出せるように。厳しい世界で気丈に戦っていけるように。
涙を見せない。
それが私が透琉くんのために出来た、たった一つのことだった。
強がりは三十分も持たなくて、追い返すようにして透琉くんを見送ってから、号泣したけれど。
それもこれも全部、胸に刻まれた大切な記録だ。
透琉くんを好きになって良かった。
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「小西さん、来週の水曜って空いてます?」
午後三時のお茶休憩タイム。
給湯室でお茶を用意していたら、ひょっこり顔を覗かせた遠藤君が尋ねた。
「えっ、仕事終わってから?」
「はい。水曜、定時上がりじゃないですか。下見行きません? 披露宴の二次会のお店」
今年の夏から、『水曜日はノー残業デー』と何故か急に決まり、毎週水曜日は全社員、定時で上がるように推奨されている。
結局仕事の量が減るわけではないからと、何だかんだ文句を言う人もいるけれど、効率よく働くことをモットーにしている遠藤くんにとっては、願ったりな制度らしい。
だらだらと時間を消化するのではなく、テキパキと仕事を消化して、できた余裕は余暇に回す。

