そして今日、たまたま透琉くんと顔を合わせる機会があったので、聞いたらしい。
「とーる、そんな仕事困ってへんやろ?」
「不便は不便ですけど、だいぶ慣れました。ギプスが取れた暁には、スーパーミラクル魔シュート放ちますよ」
「怪我の話やなくて。女の子使うて仕事取るほど、困ってへんよなあ? 逆に休みたいくらいやんな?」
「何すか、ソレ。新手のドッキリですか?」
「ならええねんけど」
と前置きをして、雪美さんは聞きかじった内容を透琉くんの耳に入れたらしい。
ライバルの名前を勝手に語って、良くない評判を立てる同業もいるらしいから気をつけなよと。
そうしたら透琉くんは血相を変えて、これから本番だという仕事を放っぽり出して、どこかへ行ってしまったのだ。
残された現場は騒然としたらしい。それはそうだろう。
雪美さんから聞いた「悠ちゃん」という人物に心当たりがあった透琉くんは、真っ先に私に電話したらしいけれど、着信音を無音にしていたため気付かなかった。
高山さんと会っている最中に失礼がないようにと、岩崎悠大に言われたからだ。
そこまで根回ししていた岩崎悠大も、「秘密を共有する者」がお喋りだったことは誤算だったのか。
それとも、透琉くんが仕事を放り出してやって来るように仕向けたのだとしたら、すごい計算だ。
とにかく岩崎悠大の計算通りなのか、思惑違いで悪い方向へ転がってしまったのかは分からないけれど、透琉くんの仕事はあの日を境にガタンと激減してしまった。
仕事をドタキャンしてしまうようなタレントにオファーするのは、ひどくリスキーだ。
話題性はあっても敬遠される。
それに、「干す」ことで制裁の意味もあるようだ。
オファーがあっても、謹慎扱いで事務所が仕事を回してくれない。
透琉くんは、いま罰を受けている。

