立ち去る岩崎悠大を茫然自失で見送り、はっとした透琉くんが瞼をごしごし手の甲で拭った。

「何、今の。超びびったんですけど」

 半泣きだ。

「やだ怖い怖い、何かついてない? 呪いかけられたとか。目の色、変わってない?」

 そう言って、パチパチさせる瞳は綺麗な翡翠色だ。

「変わってる。カラコン?」

「あ、そうだった」

 さすが透琉くん、ナチュラルにボケる。
 って感心してる場合か!

「大丈夫? 透琉くん。仕事、途中で抜けて来たって……」

「うん……正確に言うと、途中で抜けて来たんじゃなくて。これから出番ってときに抜けて来た」

 じぇじぇじぇ! どっちにしろ良くない!

「じゃあ早く戻らないと」

「戻れる……かなあ。とりあえず、菜々ちゃんは家に帰っといて。下に、乗ってきたタクシー待たせてるから」

「透琉くんは……?」


 高層マンションを下りて、豪奢なエントランスを抜けた先に待ち構えていたのは、永原さんだった。
 リストラを言い渡されたサラリーマンのように悲痛な面持ちで、コスプレ王子様に告げた。

「透琉さん、ほんといい加減にしてください。僕がどんな思いで、あなたのために頭下げ回ってると思ってるんですか」

「……ごめんなさい。反省してます」

 しゅんとうなだれる王子様に、永原さんは食ってかかった。

「それ、もう聞き飽きました。ごめんで済むほど、甘くないでしょう。あなたが戦っている舞台は。もっと自覚と責任を持ってくださいよ。ベリカのトップタレントとして、ちゃんと僕らを養ってくださいよ、頼みますよ」