「ご、ごめんなさいっ、透琉くん。私、こんなつもりじゃ……高山さんに謝る機会が得られると思って」

 余計なことをしてしまった。
 透琉くんは少し瞳を曇らせて、

「うん、分かってる。菜々ちゃんは、俺のために動いてくれたんだって。後でちゃんと話そう」

 優しい口調で言ってくれた。
 そしてまた岩崎悠大に向き直った。

「随分汚い真似してくれんじゃねーの。俺のことが嫌いでも、俺の周りの人間を巻き込まないでください。ていうか、あんたにそこまで嫌われる覚えもないんだけど? 何なの、あんたマジで」

「嫌いっていうかさ、目障りなんだよね。芸人のくせに大して面白いことも言わないし、少しばかり見てくれがいいからってきゃあきゃあ言われて、調子に乗って。話題性だけで月9の顔に? ふざけんなよ。一番ふざけてんのはさ、仕事を簡単に放り出すその精神だよね。その格好、仕事中だったんじゃないの? ちゃんと終わってから来た?」

 逆ギレ気味の岩崎悠大の言葉に、透琉くんがぐっと息を詰まらせた。

 ――え? まさか……
 本当に仕事抜け出して来ちゃったとか!?

「面目ないです」

 素直に認める透琉くんに、岩崎悠大は呆れたように息を吐いた。

「君のそういうところ、ほんとふざけてるよね。甘く見てるでしょ、何もかも。その瞳がいつか穢れればいいのに。汚い世界をたくさん見て、僕と同じ色に染まるといい」

 すっと瞳を細め、悩ましげに表情を歪めた岩崎悠大は、芝居がかった口調で訳が分からないことを言った。
 ……えっと~、何これ……ヤンデレ?

 ヤンデレなのか?

 透琉くんもポカンとしている。
 さすがの透琉くんも機転がきかないらしい、ナンジャソレ状態。

 その透琉くんにすいと歩み寄った岩崎悠大は、びっくりするくらいのナチュラルさで、ちゅっと透琉くんの瞼にキスをした。

 え?
 えええええ~!!