「ご無事でしたかっ!」

 息を切らせながら、迫真の表情で問いかけてくるのは、紛れもなく王子様だ。
 金髪を赤いリボンで後ろに束ね、襟元はゴージャスなフリルタイ、金枠の宝石ブローチが光る。
 そして、翡翠色の大きな瞳。

 か、かかかかっこいい!!
 けど、何故にコスプレ!?


「……何でそんな格好してんの?」

 呆気に取られた様子で岩崎悠大が尋ねると、王子様は

「それ、こっちの台詞。俺の姫にセクハラしないでくれる?」

 姿に似合わず、粗雑な口調で言った。

「俺は無害な変態で済んでも、あんたのは公然わいせつ罪。その上、強制わいせつ罪……未遂だよね? 菜々ちゃん、大丈夫? 俺、間に合った……よね?」

 敵意剥き出しで岩崎悠大を睨んでいた透琉くんは、私の顔を覗き込んで不安げに尋ねた。

「う、うん……何も、されてない。未遂」

「良かったああああ! やい、お前。菜々ちゃんに何かしやがったら、ケチョンケチョンにしてやるからな!」

 急に勢いづいた王子様は、腰に差したイミテーションの短剣を抜いて、岩崎悠大にぴっと切っ先を向けた。

 だけどもう片手では松葉杖をつき、片足にはギプスが嵌っている。
 どう見ても、ケチョンケチョンなのは王子様のほうだ。

 しかも言い草が子供みたいだ。

「物騒なものは仕舞ってよ。僕はただ、君のために。自分のせいで君の仕事が減るんじゃないかって、心配してた彼女に、アドバイスしてあげただけだよ。仕事が増える方法をね」

 少しも動じず、岩崎悠大はそう言ってのけた。
 丸きり嘘ではない。