彼はお笑い芸人さん



「観念しなよ」

 温度の低い声がして、さあっと血の気が引けた。
 振り向くと、岩崎悠大が立っていた。

 その姿にまたぎょっとする。

 半裸――上半身裸で、ジーンズも前が半分開いている。
 ボクサーパンツのブランドロゴがチラお目見え。紫×黒、お似合いです。

 って言ってる場合か!

「ああ、あの、私帰りますっ……高山さんいないですし、ああいうのはちょっと……」

「僕の顔潰す気? 君、とーるのために一肌脱げるって言ったよね?」
 
「言いましたけどっ、そんな直接的な意味だとは……服は脱げません!」

 きっと睨みつけると、岩崎悠大はふっと息を吐くようにして笑った。

「着衣プレイ? それもいいね」

「んっなっ……」

 からかわれてる!?

「だったら、着て下さい!」

 目のやり場に困るのよう!
 せめてファスナーをきっちり上げてほしい。

「欲情しちゃう?」

 何食わぬ顔で岩崎悠大が言ってのけたとき、背後のエレベーターの扉が、すいっと開いた。


「姫っ!」

 勢いよく飛び込んできた声に、ビックリ仰天した。

 姫……?

 思わず辺りを見回すも、私と岩崎悠大しかいない。
 この二択なら……私?