彼はお笑い芸人さん


「えっ……」

 喋らなくてもいい、アシスタント的な仕事?
 それって、別にとーぐんじゃなくても……

「……誰でも良い感じですか?」

「うん、そう。でも誰でもって言っても、画面的に可愛い子じゃないと駄目だよ。その点、君なら合格! あ、でも衣装が合うかどうか、ボディチェックがいるなあ」

 え?

「後で奥の部屋で……ね? 今は先客が使ってるから。まあ乱入してもいいけど」

 ニタリと笑って、私の身体に舐めるような視線を這わせる吉村さんに、ぞぞっとした。

 これは普通のホームパーティーじゃない。異様だ。
 さっとソファーのほうを見ると、坂井さんとその隣の彼女はもうすっかりラブモードだ。

 肩からぺろんとキャミソールを脱いで、露わになったブラの胸元に坂井さんが鼻先を埋めている。
 ぎょぎょっ、こんな人前で!

 これは噂に聞く……枕営業ってヤツ!?
 あわわわわっ

「わっ、私、っそそそんなつもりじゃっ……!」

「なーに言ってんの。そんなんじゃこの業界でやってけないよ?」

「いえ、じゃなくてっ! 私じゃなくてっ」

 とーぐんと言いかけて、やめた。
 とーぐんでもない。こんな方法で仕事取るなんてしない。透琉くんも、ぐんちゃんも。

 誤解されたら、とーぐんの名前が汚れてしまう。大切な名前が。

「とにかく、もう帰ります! 帰らせていただきます」

「ちょっと、それはないでしょー。ここに来た時点で、それなりの対価は払ってもらわなきゃ。困るよ」

 吉村さんから笑顔が消える。

「秘密は、共有してこそ守られるもんでしょ?」