その時、茂みからガサゴソ音がする。姫を探しに来た兵士か、それとも動物か……
ザザッと現れたのは、くまのように大きな生き物。姫は思わず頭を抱えしゃがみ込んだ。
宙を舞うのは見知らぬ男だった。
「いててて」
サーラ姫がそっと顔を上げると、自分の目を疑った。
地面に倒れた男を押さえ込んでいるのはナータだった。
「うそ……」
「おい!ダンを放せ!何だお前も情けない、女に投げ飛ばされやがって」
「すいません。油断しておりました、うっ」
「どうした?」
投げ飛ばされたダンと呼ばれた男は、掴まれた腕を抑えている。折れたのだろうか……いや、ナータも手を押さえてしゃがみこんだ。
「どうしたの、ナータ」
「なんでもありません……」
「なんでもない態度じゃないわ!見せなさい」
ナータの手を無理やり開くと、手のひらが真っ赤に焼けただれていた。
サーラ姫はこの前覚えたばかりの治癒魔法をかけた。
「なんでも習っておくものね」
「ありがとうございます」
男が怒鳴る。
「お前、治癒魔法持ってるなら、ダン治せ!」
サーラ姫はこんなにも態度のでかい男には会ったことがなかった。男に言い返そうとした時、ダンと呼ばれた男が穏やかに言った。
「あの方の魔法では、私は治りません」
「な、治せるわよ!その横柄な態度を何とかすればね!治して欲しいならお願いしますくらい言いなさいよ」
「無礼な小娘だな!」
「あなたの方こそ……」と詰め寄ろうとしたとき、
「姫様!」
「王子!」
ナータとダンが、同時に言った。
「姫??」
「王子ですって??」
ダンが王子の前に出て、サーラ姫の前に膝まづいた。
「貴方様は水の国第一王女、サーラ姫ですね。申し遅れました。私共は火の国のものです。こちらの方は火の国第三王子、レオン様です」
ナータが驚いたように頭を下げた。
「あなたの魔法では、私の傷は治せないと言ったのは、あなたの魔法が未熟だからではありません。私が火の国のものだからです。」
「姫様、火の国の者と水の国の私が触れ合ったためにお互いがやけどをしたのです。私の傷は姫様の魔法で癒えますが、火の国のものには効きません」
ダンとナータはお互いの主人が触れ合わないようにそっと自分の後ろに下げた。
「あなた方はまだ未成年、触れたところで火傷まではしないでしょう。このように火傷するほどというのは、感情が高ぶっていたせいもあります。気持ちを落ちつければ握手くらいなら……」
と、ダンが差し出した手を、ナータが握ることはなかった。