生まれてから城から一歩も出たことのないサーラ姫は、何故かこの日は森の方が気になって気になってしかたがなかった。
あの暗くて深い森の奥にどうしても行かなくてはならない。そんな考えにとりつかれていた。
サーラ姫は侍女のナータを呼び出した。
「ナータ、あなたは幼い頃からずっと私に仕えてくれた」
「はい。サーラ様は私の大事な姫様ですから」
「何があっても?」
「もちろんです。どんな天変地異が起きましても、おそばにいます」
「どんな天変地異も?」
「はい。姫様」
「そうね、この気持ちも天変地異なのよ、きっと」
「あの、おっしゃっている意味が…」
「いいのいいの。さあ、行くわよ」
「え、あの、どちらに??」
「天変地異よ!」
いきなりお城を飛び出した姫に 、ナータはただ付いて行くしかなかった。
とはいえ、サーラ姫もお城を出るのは初めてで、どっちに行けば森の方に行けるのかもわからない。

城の出口についた時、姫はさすがに躊躇した。この先は自分の全く知らない世界なのだ。頼りはナータだけ。でも、このナータだって森なんて行ったことがないに違いない。侍女たちの中でもどちらかというとおとなしい方だし、よくぼんやりと外を眺めている、いわゆる不思議ちゃんなのだ。まあ、仕事はソツなくこなしているようだが。
「姫様、まさかと思いますが、森に入るおつもりですか?」
「付いて来てくれるって言ったわよね」
「……はい。どこまでもお供します」
サーラ姫は、くるりと森のほうを向くと走り出した。闇雲に走った。カンだけを頼りにして。
一体どの位走っただろう、本当にこのまま走り続けても大丈夫なんだろうか。そう思った途端、突然不安と恐ろしさが姫を襲った。姫にやっとのことで追いついたナータは、姫の様子がおかしいことに気がついた。
「どうなさいましたか?」
「わからない……震えが止まらない」
「……この先は、もう国境になります。これ以上はお進みにならない方がいいですね」
サーラ姫は目を凝らした。
この先国境。なぜ自分はこんなところまで来てしまったのだろう。どんどん薄暗くなる森。風に唸る木々。どこからか聞こえる、怪しげな生物の鳴き声。
「お戻りになりますか?先へ進まれますか?」
足がすくんでもう一歩も歩けそうにないサーラ姫。ナータは自分の持っていた光のペンダントをサーラ姫の首にかけた。
「少しは明るくなります。」
「ありがとう……」