「さっきから はい しか言ってないけれど、コレで本当に大丈夫ですか?」


「は、はい!大丈夫です!…あの…先生は大丈夫ですか?いいんですか?」


「大丈夫じゃなかったら断ってます。担当してるクラスも無いし、暇だから平気です。」


先生がニコっとして頷く。


そこでやっとホっとした私は、さっきとは一変、とたんに夢心地になった。


「じゃあ来週…はもう夏休みか。火曜日はちょっと忙しいから、来週だけは金曜日、時間は15時からでいいかな?」


「はい、わかりました。」


「一応、学生服で来てくださいね。正装でくると言うことで。」


「わかりました。」


「じゃあもう戻らないと。また来週、早苗さん。」


それからの毎日は、本当に楽しいものだった。


毎週先生と会える日が待ち遠しくて、一週間があっという間に過ぎていく。


腹式呼吸の練習、高い声・低い声の出し方、細い声・太い声の出し方…


まぁ本当にただのボイストレーニングなんだけど、


それでも徐々に自分の歌声が良くなって行くのが実感できて、更に楽しかった。


最初の動機こそ不純なものだったが、私は歌を歌うという事がどんどん好きになって行き、
また、先生への思いもどんどん大きくなっていった。


恋をして少しは身なりを気にするようになり、クネクネだった髪にはストレートパーマをかけた。


眉毛も整えるようになり、身長が少しだけ伸びたおかげか、体重も徐々に減っていった。


中一の冬休みが終わる頃には、自然と良く笑うようになり、友達もできた。


小学生時代には想像も出来ないくらい、私は明るい普通の女の子になっていた。


このままずーっとこの日常が続いて欲しいな…


私は生まれて初めて、心穏やかな充実した学生生活を送っていた。