先生は上を向いてしばらく考え込むと、何かを思いついたようにまたニコっとこちらを見た。


「わかりました、校長先生に事情を話して、音楽室を使っても良いか聞いてみましょうか。
ちょっと待ってて下さい。」


そう言うと先生は、小走りに校舎に戻って行った。


先生が校舎に入るのを見届けると、精一杯張っていた緊張が解けて、その場にどっとしゃがみこんだ。


今更になって後悔が押し寄せてきて、心臓のドキドキが激しくなる。


自分は凄く迷惑な事をお願いしてしまったんじゃないか…


迷惑だったけど優しい人だから、断る口実を探してるんじゃないか…


そんな考えが沸いては消え、沸いては消えして、心臓のドキドキはいつしかギュッとした締め付けに変わっていた。


何回か深呼吸をして少し落ち着くと、私はまた非常階段に戻り、腰をかけた。


断られた時に少しでも大丈夫なように、今のうちに心の準備をしておこう…


そんなネガティブな考えで悶々としていると、先生は思ったより早く戻ってきた。


「校長先生に許可貰えましたよ、二つ返事でOKでした。


さて、これからどういう予定を立てましょう?」


先生はニコっと笑う。


私はと言うと思いがけない返事にビックリして、ほんの少しの間だけ固まってしまっていた。


「早苗さん?」


「あ、え、はい、あ、ありがとうございます!」


そんな私の様子を見てプッと噴きだした先生は、まだ半分笑った顔のまま話を続けた。


「下校時間以降、職員会議の日や行事の時以外なら、音楽室を使っても構わないそうです。」

「は、はい。」


「さすがに毎日と言う訳にはいかないので、週に1.2回でどうでしょう?」


「は、はい。」


「じゃあ毎週火曜日って事にして、その週に都合が付けば金曜日もって事でいいですか?」


「は、はい。」


先生は堪え切れなくなったように、今度はアハハと声を出して笑った。