「あいつ等はドコに行ったの…?」


私がそう聞くと、母はぐしゃっと顔を歪ませて今度は大声で泣き始めた。


「早苗ぇえ~あんたはドコにも行かないよねぇ?


行けないよねぇ?」


私にすがり付いて、泣きじゃくる。


母は壊れている……どこか他人事のように、私は思った。


「行かせないからねぇ…逃げようとしたら殺してやる…


あんたを殺して私も死んでやるんだぁ」


何故かふと、昨日の先生の苦しそうな顔が頭をよぎる。


私の中で、何かがガラガラと崩れていく感じがした。


「…行かないよ……」


思っても無い事を口に出した。


私がそう言うと母はにっこりと微笑んで、私の体を今度は優しく抱きしめた。


私はもう、何も考えるのが嫌になってしまっていた。


夏休みが終わり、また学校が始まる。


先生とはあの日以来、連絡をしていない。


これから就職活動が本格的に忙しくなるからと、私はずっと続けてきたバイトを辞めた。


学校が終わると友達と出かけることも無く、ただ家で飲んだくれている母の世話だけをして過ごした。


毎日コロコロと機嫌が変わる母に翻弄されながら、それでも特に苦痛は感じずに、毎日が淡々と過ぎていった。


私の心は、あの日から何も感じなくなっていた。


高校最後の文化祭が終わった頃。

夏休み中に訪問した5社のうち2社から、その気があるなら席は空けて置くという、内定通知の様な連絡が届いた。


大手デパート内の飲食店と、中規模の一般企業。


私は内心、稼げればどちらでもいいや…という気持ちでその報告を聞いていた。


「まだまだ時間はあるから、ゆっくり考えて」という担任の言葉に従って、私はすぐに返事を返さなかった。