【完】私と先生~私の初恋~

「まぁ……人って、いつかは離れていくじゃないですか。どんなに好きになっても、結局はどこか遠くへ行ってしまう。」


私は黙って聞いている。


「どこかに行ってしまうのは解っているから、何だか一線を引いてしまうんです。


僕は弱虫なんで、自分が傷つくのは嫌なんですよ、怖いんです。


きっとそんな気持ちが相手に伝わってしまうんでしょうね。気がついたらもう手が届かない場所に行っていた…っていう事ばかりでした。


恋愛だけじゃなく 、他の事でも…。」


先生は気まずそうにアハハと笑った。


「…先生は…その人達の事が、好きだったんですか?」


「わかりません。」


私が小さく聞くと、先生は爽やかな声で即答した。


思わず先生をじっと見る。


「こんな人間が、優しい訳が無いです。」


先生はそう言うと、いつものようにニコっと微笑んだ。


その顔を見ていたら妙に心がざわついてきて、色々な思いが物凄い早さで頭の中を駆け巡っては、消えていった。


いつも穏やかに笑っている先生の顔がだんだんと、少し冷たい、哀しそうな笑顔に見えてくる。


笑顔の裏に隠れているであろう先生の本当の顔が、私には何も見えない。


ふと、先生の言葉を思い出す。


「誰からも必要とされた事があまり無かったので…」


その言葉の裏には、先生の様々な思いが込められていたのかもしれない…そう思った。


どうしようも無いもどかしさで、胸が一杯になっていた。


「…先生。」



「なんですか…?」



「……私は先生から離れません。」


何故だが気持ちが昂ぶって、私は思わず口に出していた。


「………私は先生が好きです。だから離れていったりなんてしません。」


先生は一瞬…本当に一瞬だけハッとした顔をした。
でもすぐにいつものニコニコ顔に戻って、大きくゆっくり、何かをかみ締めるように目を閉じる。


途端に後悔が襲ってきて、私は下を向いた。


自分でも、何でそんな事をこの場で言ってしまったのかが解らなかった。

いやに早い心臓の鼓動のせいで、体が自然と震えだす。


時間を戻せるなら、自分を引っぱたいて止めてやりたかった。