先生の実家は京都。


地元ではちょっと有名な名家で、先生はそこの二人兄弟の次男だった。


仕事と称してあまり帰って来ない父。


長男を溺愛して、自分には厳しく当たる母。


長男は何でも思い通りに生活し、先生は母に言われるがまま習い事漬け。


かといって愛情を感じる事は、何一つされなかった。


それどころか、逆に罵られている事の方が多かったらしい。


それでも自分もいつかは愛されると信じていた先生は、文句一つ言わず母に従い続けた。


そんな中、たまに帰ってきては自分をめいっぱい可愛がってくれる父親の事が、先生は大好きだったそうだ。


だが高校生になったある日、先生の父は交通事故で亡くなった。


父の遺言書を見ると、財産の半分は先生に、あとの半分は長男と母で折半をしろと書いてあった。


半分と言っても、家やその他のものを入れると、軽く億には届いていた。


それをみた兄と母は、当然怒り狂った。


財産は長男である兄に継がせるべき、と。



その頃にはこの家はおかしいと目を覚ましていた先生は、ある程度のお金さえ貰えれば自分は満足だからと遺産を放棄し、 手切れ金の様な形で元の半分の金額だけを受け取り、もう自分には一切関わって来ないようにと、念書を書かせた。


兄と母は喜んでそれを書くと、先生を家から追い出した。


元々出て行く気だった先生は、逆にこれ以上揉めなくて良かったと、ホッとしたそうだ。


それ以来、本当に何の接触もしてこず、先生は今、平和に暮らしているらしい。


「だから僕、無駄にすごーくお金持ちなんですよ。」


先生は笑った。


私は何も言えなかった。


二人の間に不思議な空気が流れた。


「なんだかちょっと重い話に聞こえるかもしれないけれど、今となっては多分いい思い出です。だからそんなに難しい顔をしないで。」


「えっ?」


「眉間。すっごいシワ寄ってましたよ。」


先生はクスクス笑いながら、私のオデコを指差した。


ハッとして自分の眉間を触る。


先生はその様子を見て、今度は大きな声でアハハと笑った。


私は少し不貞腐れながら言い返す。