「…聴いたこと、あるんですか?」


ビックリして質問すると、先生は指を止める事無くニコニコしながら言った。


「いいえ、初めて聴きました。素敵な曲ですね。」


「…初めて聴いたのに、弾けちゃうんですか………。」


私がそう言うと、先生は手を止めて少し恥ずかしそうに笑った。


「言ったでしょう?僕、ピアノは得意なんです。」


私はプッと吹き出した。


「……ピアノの曲、好きなんですか?」


「はい。」


「…じゃあ一緒に弾いてみます?」


先生はニコっと笑う。


私は慌てて首を振った。


「出来ません!私、ピアニカ以外の鍵盤には触った事ないです!」


「大丈夫。簡単ですよ。」


先生は立ち上がり、私をなかば無理やりピアノの椅子に座らせた。


そして隣に立つと、私のちょうどまん前辺りにある鍵盤を指差した。


「早苗さんはここから右半分、好きな音を指一本で鳴らしてくれればいいです。そうですね……大体同じテンポで弾いてください。」


「は…ハイ。」


「あ、白い鍵盤だけでお願いしますね。」


私が頷くと、先生は「じゃあどうぞ。」と言った。


恐る恐る鍵盤を押す。


先生はそれに合わせて、左手で伴奏をつけた。


適当に押しているだけの筈なのに、ただの音が音楽になっていく。


私は何とも言えぬ感動で、背中がゾクゾクとした。


ある程度弾いた所で、私は鍵盤から指を下ろした。


感動にほころんだ顔で、先生を見る。