「…先生……?」





私がやっとで呟く。


「ごめん…ごめんなさい…やっぱりあの時、帰すんじゃなかった…帰すんじゃ……」


先生は苦しそうに言った。


その途端、私は堪えきれなくなって先生をぎゅっと抱きしめ返すと、声をあげてわんわん泣いた。


静かな部屋で、先生はコーヒーを入れている。


あれから暫く泣き続けた私は、疲れてぼーっとした頭でソファにだらりと座っていた。


クーラーの効いた部屋が、ひんやりして心地いい。


「…はいどうぞ。」


先生が少しおしゃれなコーヒーカップを目の前のテーブルに置くと、私は小さな声で「ありがとうございます」と言って床に降りた。


先生もこの間と同じように、私の方を向いて床に座った。


コーヒーのいい香りと苦味で、頭がだんだんシャキっとしていく。


ちらりと先生を見る。


こちらを見ていたらしい先生と、パッと目が合った。


なんだか恥ずかしくなって、私は視線をそらして下を向いた。


「あの…さっきはその…すみませんでした。」


先生が恥ずかしそうにそう言った。


私はブンブンと首を振る。


「自分でも何であんな事したのか、よく解らないんです……ごめんなさい。」


「いえ…」


先生はまた、いつもの顔に戻っていた。


「顔…大丈夫ですか?それ以上、腫れないといいんだけど…」


私は自分のコメカミを触った。


母に殴られた所が少しだけ熱をもってはいたが、不思議と痛みは引いていた。


「大丈夫だと思います…今のところ痛くは無いです。打ち所がよかったのかな?」


私が苦笑いしながらそう答えると、先生はクスっと笑って「そうですか」と言った。