【完】私と先生~私の初恋~

「…必要とされた事…ないんですか?」


私が質問すると、先生は苦笑いしながらハイと頷いた。


「お恥ずかしい話ですけど、僕にもちょっと色々ありまして……まぁこの話はやめましょうか。」


先生はアハハっと笑った。


「本当はいけない事なんですけど、僕は早苗さんの事が、大事な歳の離れた妹というか…そんな風に思えてしまうんです。」


胸がギュッと痛んだ。


「大事だから、貴女がまた傷ついたり、傷つけられたりするのが怖いし嫌なんです。だから…絶対に絶対に自分を守ってください。」


私はまた、大きく頷いた。


「元教え子をそんな風に思うなんて、僕もダメな大人の一人ですね。」


先生は私の目を見ると、何だか哀しそうにニコッと笑った。


夜も更けてゆき、私は先生に家の近くまで送ってもらうと、絶対に約束は守りますと改めて宣言した。


先生はいつものようにニコっと笑うと、「絶対ですよ。」とだけ言った。


意を決して家に入る。


テレビを見ているであろう男と、あいかわらず鼻歌交じりで台所に居る母を無視するように通りぬけ、部屋に戻ってガチャガチャと小物入れを漁る。


「あった…」


随分と昔に買った南京錠。


役に立ちそうな物を部屋中を漁ってかき集め、何とかドアに鍵をつけると、私はやっとホッとしてベッドに座った。


これでひとまず大丈夫…あとは日中どうやって身を守るかだ。
小さな頭で必死に考えた。


まず就寝時や家に居る間は常に部屋に鍵をかけて閉じこもる。


お風呂は母が居る時のみ。


男が休みであろう時は、どこかに出かける。


なるべく二人と顔を合わさずに生活をする。


やれるべき事を一通り考え終わった頃、ふと先生の言葉が頭をよぎる。


『大事な歳の離れた妹…』


私は、いつもとは違う胸の痛みを感じていた。