「…先生って大変ですね。数年であっちに行ったりこっちに行ったり。」


私がしんみりそう言うと、先生はフフっと笑いながら小さくフルフルと首を振った。


「そうでもないですよ。元々引越し好きなんで、丁度いいです。」


「引越しが好きとか、変わってますね。」


私が笑うと、先生はちょっと照れた様に頭をかいた。


「よく言われます。でもどんなに快適な部屋に住んでいても、またすぐ引っ越したくなっちゃうんですよ。」


「ずっと同じところに居るのが苦手なんですか?」


「いや、そういう訳じゃ無いんですけど、部屋が変わると気分が変わるというかなんというか…」


「模様替えのようなもの?」


「そうですね、多分そういう感覚なんだと思います。」


引越しが好き…という事は、またすぐ違う所に行ってしまうのだろうか…


「じゃあまたすぐ、他の学校に移動したりするんですか?」


「いや、僕が好きなのはあくまで部屋を変えるって事ですから。」


「そうなんですか。」


「です。自分の好きな地域の中で、部屋だけを変えるんです。今回戻ってきたのも、自分から希望出したんですよ。ここが好きだから。」


先生はニコっと笑った。


ここが好き、自分から希望を出した…


別に私に会いたくてなんて言われてもいないのに、何故だかその様な事を言われた感じがして、また心臓がドキッとした。


それから他愛の無い話を途切れ途切れにしていると、突然私を呼び出す校内アナウンスが流れた。


ハッと気がついて時計をみると、もう13時半。


先生に会えて浮かれていた私は、本番前の最後の音合わせをすっかり忘れていたのだ。


「今の、早苗さん呼び出してましたよね?」


先生は驚いて私を見た。


「……最後のリハーサル忘れてました。」


先生は珍しく大きな声で笑うと、早く行きなさいと私の肩をポンと叩いた