泣いてる顔なんて見られたくない…早く泣き止まないと…


そう思えば思うほど、意志とは裏腹に涙が止まらなくなっていく。


なんとか泣き止む為に深呼吸を繰り返していると、音楽室のドアが開く音がした。


「待たせてすみません、ちょっと忙しくて…」


泣いて真っ赤になった目が、先生の目と合う。


先生のビックリした顔を見て、私は何故か恥ずかしくなり下を向いた。


先生はそっと扉を閉めると、いつものようにピアノの椅子に座る。


例え様の無い不思議な沈黙が、ただただ重苦しかった。


「…泣かないで。どうしたの?何があったの?」


先に喋ったのは先生だった。


どうしたの?とは酷い事を聞くものだ…先生は何も気がついていないのだろうか?


それとも気がついてないフリをしているのか…?


「……寂しいです…」


私は勇気を振り絞ってそう言った。


先生はまたまたビックリした顔をしたが、すぐにまたニコっと笑って


「そうですね、僕も寂しいです。」


と、優しく言った。


「私は…」


「…?」


「私は、先生のお陰で変われました。先生のあの時の一言が、私が大きく変われるきっかけになりました。先生に会えて良かった。…だから…とても寂しいです…。」


昔の自分では考えられないくらい、自然にスラスラと言葉が出た。


そう言うと何だか心がふっと軽くなって、不思議と涙は止まった。


沈黙がしばらく続いた後、急に不安になって先生の顔をそっと見てみる。


また少し驚いた顔をしていた先生は、私と目が合うと、今まで見たことの無い穏やかな表情でにっこりと微笑んだ。