コンコンッ……。
遠慮がちに歴史資料室の扉をノックする。
「村瀬です」
「あぁ、入れ」
蒼ちゃんの声に恐縮しつつ扉を開け……私はその足をゆっくりと踏み入れた。
「戸、きちんと閉めとけよ?」
中に入ると、そこには蒼ちゃん1人しかいなくて
ほんの少しホッとする。
「あ、あの……」
「村瀬。言いたいことはたくさんあるかもしれないが、ここでは教師と生徒だと言うこと……わきまえてくれ」
私が何を言いだすのかも蒼ちゃんには、すっかりお見通しのようで
有無も言わせないまま、その鋭い言葉ひとつで
見事なまでの一線をビシッと引いた蒼ちゃん。
「蒼ちゃ……」
「城崎。俺は城崎で、お前の担任だ」
「…………」
まるで呪文のようなその言葉は
私を強く縛り付けて、解く力さえも奪う。
「悪いが、そこの棚から鎌倉時代の資料を抜き出しておいてくれ」
「………は、はい」
5年前まで、私を可愛がってくれた蒼ちゃんの面影は
欠片もない。

