【完】ズルい瞳[短編]




次の瞬間




ものすごく強い力で手首を掴まれたと思ったら




今度は身体ごとすっぽり、大きくて温かい体温に包まれた。




「え………」




戸惑う間も与えられず




「バカ……風邪ひくだろが」




そのまま蒼ちゃんのスーツの中に押し込まれてしまう。




「蒼ちゃ……」




「先生って呼べよ」




「せ、先生……」




肩を抱き、有無も言わせないまま私を助手席へと誘う蒼ちゃん。




初めて乗る蒼ちゃんの車は……少しだけシトラスの香りがした。




「た、煙草の残り香はしないんですね」




「あぁ。匂いが付くからな、嫌がる奴は嫌がるだろ。あ、シートベルト忘れるなよ」




「あ……は、はい」




嫌がる人……それって、やっぱり。




暗くなりそうな発想を慌てて振り払う私。




そんな私を、蒼ちゃんは意味ありげな笑みで見つめると




「ほら、これ着とけ」




水気を軽く払った自分のスーツの上着を、私の頭の上へと乱雑に乗せた。