分からないということは、部長ではない可能性が高い。


まず、あの走る早さに人がついていける訳がないとも思うし。


部長でなければ、私的には一安心。


分からないことは不安でもあるけれど。



彼が首を振ったことで頭にある獣耳がそれにつられてふるふると揺れる。



「……」



ジッとその耳を見つめる。


丘の上は静寂に包まれていて、たまに聞こえてくる木の葉の擦れる音に反応してピクリと動く。



「……」



足を少し動かしてみる。


…ピクリ。



「…あ」



声を小さく出してみる。


…ピクリ。



ぞくぞくぞくっと、ある欲求が湧き上がってくる。


…触りたい。


あの獣耳を触りたい。


触ってみたい。


何に追われていたのかよりも、今したい欲求は全く別のもの。


あの獣耳に触りたい。



「あ、の」


「…なんだ」



私は何を言おうとしているの?


触らせてくださいって?


そんなの言える訳がない。


絶対に断られることが目に見えている。


だったら、言わなければ…?


そんな思いが出てくる。


少ししゃがんで貰えれば、手を伸ばせば触ることが出来る。



「なんだ、マコト」



秋月くんが催促する。


未だに姿は獣耳が生えたまま。


前回のことを考えると、すぐに姿は戻すことが出来るのだと思うけど。


それをしない理由は私には分からないけど。



けど、今しかないのかもしれない。


次のチャンスはいつ訪れるのか分からないし、訪れないかもしれない。


…だったら!