こうやって、手を繋いで、ゆっくり歩いてくれて、優しく問いかけてくれる。


キスもしてくれた。それだけで充分じゃないのか。


それ以上、何を望むというのか。望むものなんてないじゃないか。



「何でもない、です」


「何だそれ」



そう言って、微かに笑ってくれればそれでいいじゃない。


秋月くんと離れて分かったこと。


やっぱり、私は秋月くんのことが好きで、ただただ一緒に居られればそれだけで満足なんだ。


横で笑って一緒に居てくれれば、それだけで。



言葉も大切だけど、今この時は一緒に居られればいいんだ。


そうこうしている内に家に着いていて、秋月くんが足を止め振り返る。



「ゆっくり休めよ」


「はい。ありがとうございます」



こうやって、一言声をかけてくれるだけで。


私は笑顔になれるんだ。


笑って頭を下げる。


ふわりと離れた手のひら。



「また明日な」



そう言ってポンポンと私の頭を軽く叩くと秋月くんは踵を返した。



「また、明日…」



初めて聞いたその言葉がどれだけ嬉しくなるものかきっと彼は知らない。


また、明日会うことが出来る約束。


今まで、一緒に帰っていた時には一度も聞いたことのない言葉。


叩かれた頭に手をやる。


去っていく後ろ姿は段々と夜の闇に溶けていく。


目立つ金髪も遠くなれば見えなくなって、一人になる。



「また、明日…」



もう一度呟いて私は家に入った。