そして、彼は前触れもなく走り出した。


私が逃げようとした方角へ。


長い手足を利用して走る秋月くんのリーチは大きくすぐに距離が離される。



「秋月くん!」


「凌!行け!」



私が彼の名前を呼ぶのと同時に司さんが叫ぶ。


まるで、犬にボールを取って行かせるかのような命令の仕方。


司さんは自分を抱き抱えていたお兄ちゃんを突き飛ばし秋月くんの元へ走るよう指さす。


早く行けと睨みつける。



「え?あ、お、おう!」



睨みに怯みつつも、瞬時に秋月くんを追ってお兄ちゃんが走り出す。


走る最中、札を取り出し唱えていたから、何か術を使ったのだろう。


お兄ちゃんの姿も雑木林の中へと消えていった。