名前を呼ばれた。


久しく聞いていなかったその声音。


私を安心させるその声、その存在。


ゆっくりと振り返れば目を惹く金色の髪と金色の瞳。


髪には紛れるように獣耳がある。



「秋月、くん…」



秋月くんが、居る。秋月くんが。


スタスタと私の元へと近づいてくる。


険しく眉間に皺が寄せられた表情を浮かべる彼。


一言で言うなればそれは怒りだ。



「何してんだよ!」



端正な顔が怒りで彩られている。


鋭く細められた金色の瞳の迫力は半端ない。


気のせいか秋月くんの周りの砂が舞っている。


その剣幕に思わず目を瞑る。



こうやって怒らせるつもりなんてなかった。


それ以前に怒られるとも思ってなかった。


どうして。どうして秋月くんは怒っているの?


その怒りは何に対してなの?


それに、どうして秋月くんがここに居るの?


秋月くんの居る理由。全てが分からなかった。



「え…?」



その時、暖かなぬくもりが体を包んだ。


ギュッと抱きしめられてる。


誰に…?秋月くん…に?


閉じていた瞳を開ければ視界に入る秋月くんの金髪。



「あ、秋月…く…」


「馬鹿か!」



ガバリと両肩を押されぬくもりが離れる。


間近に迫る秋月くんの顔が凄く必死で。


怒鳴られたことに目を見開く。


秋月くんが離れたことで一瞬の内に体が冷える。