走り出したはいいが直ぐに追いつくことはできず。


彼女の姿を捉えることができたのは道場にたどり着いてからだった。



司さん、走るの速すぎ…


私も足が遅い訳ではないのに、ずっと彼女の姿を捉えられなかったから。


どんだけ、司さんは走るのが速いのだろう。


それこそ、普通じゃない気がする。



「司さん…?」



道場の入り口の所で立つ司さんの後ろから中を覗き込む。


さっきまで居た道場の中には異様な光景が広がっていた。



煤汚れた床。


埃の舞った室内。


壁に背を預けしゃがみ込み俯く秋月くん。


その秋月くんを睨みつけるお兄ちゃん。


お兄ちゃんの手にはお札くらいの大きさの紙が数枚握られている。



「な、何が…」



ドゴンッ!


起きているの?そう続けようとした言葉は二度目の大きな衝撃音に遮られた。


その音の発生源。


それは、吹き飛ばされ壁に体を打ち付けたお兄ちゃんだった。


一体全体、何が起きたのか分からない。


ゆっくりと立ち上がる秋月くんの姿が目に入る。



「ぐっ…う…」



呻き声が埃を反響し道場に響く。


立ち上がった秋月くんの姿が変わる。


獣耳を携えた神々しいその姿。