「あの!ちょっと、しゃがんでもらってもいいですか?」


「しゃがむ?なんでだ」


「少しでいいのでお願いします」



訝しげな表情を浮かべた秋月くんだったけど、渋々といった感じで少ししゃがんでくれた。


腰を屈める程度だけど、これなら届く範囲。


本当は正直に言った方いいのだろうけど…


心の中で失礼しまーす。と、呟きゆっくりとその獣耳に手を伸ばした。



触れる直前になって、もしかしたら怒られるかもしれないと一抹の不安がよぎったが、ここまできたのだ。


意を決して最後の距離を縮めた。



「…っ!?」



両手で両耳に触れた瞬間、ビクッと獣耳が大きく震えた。


そして、バッと獣耳から手が離れる。


意思とは反して離れていった獣耳。



「あっ!」


「な、何をしている…?」



秋月くんが驚いたような顔で私を見ている。


一瞬しか触れることが出来なかったけど、凄い手触りが良くて、ふさふさだった。


彼の獣耳を見ると、ピクピクと忙しなく動いている。



あー!もう一回触りたい!


これじゃあ、全然、触り足りない。


もっと、堪能したい。


そのふさふさのぬくもりを。



「もう一回!もう一回しゃがんでくださいって!もう、急に動かないでくださいよ!」


「マコトが変なことするからだろ」


「変って、耳触っただけですよ?」


「十分、変だ」



秋月くんが私を見下ろし、ため息を吐く。


ほのかに顔が赤いのは気のせいだろうか。


けど、それよりも今、私が気になるのはもっと上。獣耳だから。