ザァーー…ゴロゴロゴロ…



「そんな……」



ポツリとそんな心の呟きが思わず口に出てしまった。
しかし、こうしてる間にも足音は近付いてくる。


タッタッタッ


ここで何時までも迷っていられないと自分に気合いを入れ拳に力を込める。


グッ


(…よし!行こう!)



ダッ…



こうしてカナは走り出した、このどしゃ降りの大雨の中を…。



足元はグチョグチョで思うように走ることの出来ない道。
その上視界は雨で思うように見えない景色。



この最悪な状況の中、彼女はまともな道でもない道を必死に走っていた。



その頃、カナが出ていった扉の前に漸く辿り着いた一人の男がいた。
それはカナの執事だった。



カナが小さい頃からずっと面倒を見ていたという彼、それほどカナのことを心配なのか、どしゃ降りの大雨の中躊躇なく後を追いかけた。


グチャ…





その頃カナは、目の前の壁に成す統べなく呆然と立ち尽くして雨に打たれていた。



カナの目の前にあるものは崖だけだった。
以前そこには向の崖に渡る橋があったのだが、このどしゃ降りのせいか雷でも落ちて橋が壊されていたのだった。



「どうしたら…」



戻ろうと後ろを振り返ると、早くも執事の彼がカナの後ろに既に追い付いていたのだった。



「お嬢様…」



そう執事が声を掛けた…このどしゃ降りでも聞こえる声量で。
その声を聞いたカナはビクッと思わず体を震わせた。



「いや…来ないで…」



カナはか細い声で言うが、彼の耳には聞こえないのか彼はジリジリと距離を縮めようと歩き出した。



そんなカナの抵抗を遮るように、雨は止むことを知らず降り続けていた。


ザァーー…