期末テストも終わり、夏休みへのカウントダウンが始まる。
今日は大掃除の日。
普段は手をつけない校舎裏や、中庭も掃除場所となる。
私は校舎裏に派遣された。
右手にほうき3本、左手にビニール袋。
正面には、校舎裏に派遣されたその他女子たち。
「ウチら、朝から調子悪いんだよねぇ。だから、代わりに全部やっといてくんない?」
絶対嘘だ。
んな都合よく私以外の全員が体調不良になりますか。
ほんとに調子悪いなら、その膝上15センチのスカート伸ばせよ。
仁王立ちやめれ。
キラキラしたメイクを落として、土色の肌でも晒してみせなさい。
内心では好き勝手に言えるが、ノーと言えない日本人の私。
現実での返事はひとつ。
「わかりました」
「やりぃ!」
「手ぇ抜かないでよね」
「センセーにも言いつけんじゃないわよ」
そう言って、キャハキャハ騒ぎながら何処かへ行こうとする彼女達だったが。
「おやおや、お元気そうじゃありませんか」
背後からの第三者の声に動きを止めた。
振り返るとそこには、細身で長身の美形な男子生徒。
首の後ろで一つにまとめた長髪がなびく。
「大家センパイ……」
「なんでここに……!?」
「失礼。調子が悪いんでしたね。教師に保健室で休ませてもらえるよう、言いにいきましょう」
「違うんです、大家センパイ、体調悪いのはコイツです! 代わりにウチらでやろうとしてたところでー」
「ほら、ほうきと袋よこしなさいよ!」
女子達が私の手からほうきとビニール袋を取り上げる。
「ほら、あんたは体調悪いんだから、どっか行きなさい」
「で、でも………」
「戻ってくるんじゃないわよ!」
「ぁ……はぃ…………」
ノーと言えない日本人の私は頑張ったが、彼女達の命令には逆らえなかった。
彼女達はわざとらしくほうきを使い始める。
その背中からは拒絶を感じた。
追い出された私、どこに行こう。
皆が掃除してる中、私だけ休むのも居心地が悪い。
どこかに人手不足なところないかな?
「それでは、保健室に行きましょうか」
「あ、はい……」
大家センパイと呼ばれた彼、風花寮の大家さんに促され、その場を離れた。
いつも和服を見てるから、制服姿がとても新鮮。
こちらもよく似合ってます。
若そうだとは思ってたけど、大家さん学生だったんだ……。
「とりあえず連れ出したはいいものの、福井さん、体調はいかがですか?」
「あ、いや、全然平気です」
「ですよね、どうしましょうか」
足を止めて、考える素振りをする大家さん。
手元のバインダーにボールペンで書き込む。
「ところで、大家さんは、どうしてあそこに?」
「ああ……見回り、ですよ。これでも生徒会長やってるもので」
「そうなんですね、すごいです」
「生徒会長といってもお飾りですよ。行事の際にちょっと挨拶するくらいで、業務はほとんど副会長がやってます」
「へー、そうなんですね」
「………決めました。福井さんには、私の補佐をしていただきましょう」
「補佐、ですか?」
「はい。見回りしたところにチェックをつけていってください」
大家さんにバインダーとボールペンを渡された。
挟まれた紙は、学校の見取り図。
私の掃除場所には、1年福井体調不良、とあった。
もちろん私は体調不良などではない。
「私は、小姑の如く皆さんの掃除に文句をつけていきます」
ウインクする大家さん、素敵です。
校舎に入ると、すれ違う生徒達の注目を浴びる彼。
「大家先輩だ!」
「キャー! 大家先輩!」
「先輩ー、こっち向いてー!」
「会長ー!」
「キャー! いまあたしのこと見た!」
「手振ってくれた!」
「かっこいい!」
「うつくしすぎる!」
みんな、掃除の手を止めて、大家さんに見入る。
大家さんの優雅に揺れる黒髪を追う一般生徒の私、肩身が狭い。
でも、ついていくしかあるまい。
なるべく目立たないよう背中を丸めるが、道ゆく人皆、大家さんに夢中で私など眼中になさそうだ。
影の薄い平凡万歳!