「今日はどうでしたか?」


あれから、私たちは縁側から沖田さんの部屋に移動した。


廊下の角、つまり角部屋になる沖田さんの部屋はきれいに片付いていて、2組の布団はちょうどいいくらいの間を取って敷けたので、私は緊張することなく休めた。


すっかり目がさえてしまった私と沖田さんは、お互いに天井を向いたまま他愛無い会話をしていると、おもむろに聞いてきた沖田さん。


「ハハッ……
なんか、色々とありすぎてこの先不安ですよ……」


この先の不安を思いながら、私は乾いた笑みを漏らす。


「クスッ……
僕達が江戸から上洛してきて、1か月余りたちますが、僕も最初のころはそんな感じでしたよ。

会津お預かりになれたことの嬉しさ、この先の不安。色々な感情が私の中を支配して、初日の夜は全然眠れませんでした。

僕が縁側で星を眺めていると、皆さん私と同じらしく全員起きてきてしまいましてね。その頃はお金がなかったので、安いお酒を水で薄めて朝までみんなで騒いでましたよ…」


私に語りかけているのか、それとも昔を思い出しているのか。それらを語る沖田さんの顔はとても穏やかで、それと同時に子供のような無邪気な顔をしていた。


「なんか……
沖田さんって、不思議な方ですよね……」


私は、気付いたらその言葉を口にしていた。


「えっ?」


沖田さんはさっきの表情から一変。
目を開き、首をかしげてとても不思議そうな顔をしている。


「私、最初に沖田さんを見たときとても大人びた人だな、と思ったんです。
出会って半日しかたってないですけど、常に笑顔で素敵な人だなぁって。

だけど、常に笑顔でいるからこそ何を考えているかわからない。
綺麗に咲き誇っている薔薇の花みたいに、触ったら怪我をしてしまいそうで……

私どこかで本能的に思ったんです。『この人に近づいちゃいけない』って。

だけど、昔の話をしているときの沖田さんは、とても無邪気で子供みたいな顔をしていました。その沖田さんの顔を見て大きな勘違いをしていることに気付いたんです。

『この人は、きれいだけどどこか冷たくて近寄りがたい薔薇の花じゃない。常に上を向いて咲いている、明るくて誰からも愛されるひまわりのような人だ』って。」


「彰さん……」


そう、私の名前を呼ぶ沖田さんはいつものように微笑んでいた。