誰だってあんな状況を見たら、乙葉ちゃんのみに何があったかを誤解するは当然のはず。


だけど、どれが誤解に終わってよかったと私は心から安心した。


「じゃ、俺たちはそろそろ行くよ、彰。」


「飛鳥さんっ!!」


私達に背中を向けながらそう言って去っていく飛鳥さんに、まだまだ言いたいことがあった私。


まだ帰らせないぞという意味で飛鳥さんを呼び止めた私の声が、予想以上に響いて自分自身でも少し驚いたのはしょうがないと思う。


「まだ何かあるのかな?」


私に呼び止められてゆっくりとこちらを振り向いた飛鳥さんに、私は自分の気持ちをはっきりと言いたいと思う。


人間、生きていくためには大切なことがある。そのうちの一つが人間関係、人付き合い、対人関係だ。


それらの場合、相手の表情から相手が今どう思っているかを読み取って、人付き合いをうまく成り立たせていくものだと思う。少なくとも、私はそうだった。


だけどこれが飛鳥さんの場合だと、これまた別物になる。


はっきり言うと、飛鳥さんは表情。感情というものが読み取れない。それは、その関係に影響を及ぼす場合がある。


飛鳥さんは、自分の気持ちをはっきりと言わないところがある。それは決して、自分の気持ちが言えないじゃなく、あえて自分の意見を言わないで相手の反応を見て楽しんでいるんだと思う。


だからこそ私の気持ちをはっきりと言わないと、ややこしい飛鳥さんの場合は知らないうちに関係がこじれる場合があるんじゃないかと、これまで飛鳥さんに接した中で考えてきた。


「私は飛鳥さんのことが嫌いじゃありません。………まぁ、最初は嫌いでしたけど。」


「ひどいなぁ、俺の心が傷つくじゃないか。」


全然傷ついてないでしょ、というツッコミ話でお願いします、はい。


「でも、飛鳥さんと過ごしてく内にややこしい人だなとは思ったけど、いっしょにいてたのしいひとだな、って思ったんです。」


こんな風に自分の気持ちを打ち明けるのは、ちょっとハズカシイする気もするけど、この機会を逃したらダメだと私の心が言ってる気がする。


「だから、だから………!」


「分かったよ。ありがとう、彰。」


なぜ私の言おうとしたことが分かったのかはわからない。だけど、飛鳥さんはそういう人なんだ。


私はそういう所も含めて、飛鳥さんを面白いと思っているのかもしれない。


「今度こそ俺たちは行くよ。」


そう言って、背中を向けながら手を振るその背なかはなぜかとっても凛々しく見えて。


裏路地へと続く道を歩いていく飛鳥さんは、何か覚悟をしたような雰囲気を醸し出していて。


夕日が昇り始めた空と、その陰と。その二つのコントラストが、なぜかとっても怖くなって。その陰に向かって歩いていく飛鳥さんはどうしようもなく逞しく見えた。