「帰らなかったの?」

「は?」

「シャワーを浴びている間が、逃げるチャンスだったのに」


おかしそうに言いながら、小型冷蔵庫から水のペットボトルを出した。


「逃げる?
 そんな卑怯なことはしないもんね」


なぜか胸を張ってしまうと、くすくすと笑われた。


「そうだな。
 逃げる積りなら、回し蹴りで倒されているな」

「そんなに凶暴じゃないから」

「飲む?」


返答なしに、飲んでいたペットボトルが目の前に突き出される。


「ありがと」


麗華は受け取って口をつけると、怜士の手が重なった。