“この所、虫の居所が悪いわね~”とアイーシャには楽しげに言われる。

意味がわからないフリをしているが、アイーシャがどこまで見抜いているのか不安だ。

もう麗華は関係ないと納得させないと、日本を離れても危険だ。


「今泉」


帰り際に玄関ホールで呼び止められ、思わず足を止めて振り返った。

これがいつもの声音だったら、聞こえなかったことにして立ち去っていただろう。

聞いたことのない弱さを含んでいた。

顔を見て、思わず一歩足を進める。

どうしたんだ?

何があった?

そう聞きかけて、言葉を飲み込んだ。


「なに?」


できるだけそっけなく言う。


「うん」


背後にアイーシャがいるのに気付いて、少し怯んだ様子を見せた。


「カテキョ。
 また出来たらやってもらいたくって」


言いづらそうに小さな声で告げる。

何かあったのか?

くちびるを動かしかけて、引き締めた。