歩き方やシルエットで誰だか推測はついた。
すれ違いざまに美和が口元で笑う。
おかしそうに。
怜士は表情を変えなかった。
あの笑いは余裕か。
こちらの不甲斐なさを笑ったのか。
楽しまれているように感じたのは気のせいか。
「遅いじゃない」
「そうかな」
二人の会話で、美和の登場がアイーシャによって仕組まれたことと知った。
ホテルの勝手口を開けて、レディーファーストでアイーシャを先に通す。
彼女の頭越しに、残した麗華の方を見た。
防波堤に並んで座る影。
先ほどまで自分が座っていた位置には、美和がいた。
あたりまえのように、自然に。
所有権が誰かを主張するように。
怜士は視線を引き剥がした。
ドアを閉める。
今はいい。
だが絶対その位置を取り返す。
譲るのは、今、だけだ。