「では」
怜士はドアを開けて、外へ滑り出た。
再び光の中へ。
その明るさに目を細め、束の間の自由となってしまった空気で肺を満たす。
今からなら、まだ麗華に追いつけるかもしれない。
あの底抜けの明るい空気感。
彼女の側に行きたかった。
リムジンから颯爽と出て行った息子の後姿を見送って、男は満足そうに口元をゆがめた。
息子は調べていた以上に若い時の自分とそっくりだった。
あれでいい。
このダバリードの帝国を継ぐのには。
だろう?
マリエ。
男はかすかにくちびるを動かして名前を紡いだ。
名を呼べば、振り返り、微笑をたたえた瞳でみつめてもらえなくなり、久しい。
それでも、名前を呟けば甘美な想いが蘇る。
マリエ。
男は目を静かに閉じた。

