「ええ、知っています」
それはそれで面白かったらしい。
愉快そうな顔になった。
「証拠を見せろとか言わないのか?」
「言いませんよ。
あなたには言っても無駄でしょう。
違っても、それなりの証拠を備えそうですし」
楽しくて仕方なさそうだ。
目がきらめいた。
「初対面なんだけどな」
「そうですね」
「相手が嘘を言っているか、言っていないか。
言っていても、それで可か否か。
見抜く力は父親譲りなんだろうな」
怜士の顔が強張った。
この人の言っている父親とは、戸籍上の父親の事ではない。
一枝はくすりと笑った。
「ちょっと話そうか」
柔らかく言うと歩き出した。

