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一晩経った怜士は今まで通りだった。
いつも通り放課後、コーヒーショップで勉強を見てもらい、車まで送ってもらう。
あえて昨日のことを突っ込むようなバカなまねはしない。
怜士も何も言わない。
麗華の車が行くと、怜士は駅へ向かうために反対方向へ歩き出した。
数メートル先で、ビルの壁に寄りかかり煙草を吸っている人と目が合う。
その人の持つ力で、視線が引っ張られた感じだった。
ひたりと目を合わせたまま、壁から身を離すと、歩み寄ってくる。
ああ、女性なのか。
近くまで来てやっと性別が判る。
綺麗な顔をした男かと思った。
「今泉怜士?
北野一枝だ。
麗華から一度ぐらいは聞いたことが無いか?
彼女の叔母だ」
ここで聞いたことが無いと言えば、この人は面白がるだけだろう。

