「あ、ちょっとオーバーヒート気味。
帰る」
「気をつけて」
一枝は書類に戻りながら、ひらひらと手を振った。
玄関の前に横付けされた車に乗り込もうとすると、見計らったようにスマホが震えた。
怜士だ。
「はい?」
「今泉だけど」
「うん」
「車まで送らなかったから、無事かどうかと思って、かけた」
ああやって店を出て行ったが、一応、気にしていたわけだ。
「ありがと。
大丈夫」
「まだ、外?」
北野邸の庭は広いが、外の雑踏は完全に遮断できない。
聞こえてくるのだろう。
怪訝な声だ。
「これから帰るとこ」
「ああそう」
なぜか微妙な沈黙になる。

