六臣が部屋を出て行き、小雛と三篠の二人だけになった。




(ど、どうしよう!反対されるのは覚悟の上だったけど、三篠と二人きりになるなんて思わなかった…!)




自分が胡蝶ノ国へ行くことに反対されるであろうと予想していた小雛だったが、こうなることは予想してなく焦っていた。




小雛がどうしようか戸惑っていると、俯いていた三篠が大股で小雛に近付いてきた。




「…こ・ひ・なぁ~!お前という奴は何を考えているんだ、全く!
肝を冷やした俺の身にもなれ!」


「い、痛い!三篠、それ痛いから!」




三篠は小雛に近付き怒りながら拳で小雛の頭をグリグリの刑に処した。
小雛は涙目になりながらも、三篠の手を退けようと三篠の手首を掴んだ。




しばらくグリグリの刑に処された小雛はしゃがみ込み、頭を押さえた。
部屋の中はしばらく小雛の唸り声が響いていた。




「…本当に行くのか?」


「……え?」




頭上から呟くような声が聞こえ、小雛は頭を押さえたまま顔を上げた。
小雛の目に映ったのは、心配そうに眉をハの字にした三篠だった。




三篠の今にも泣きそうな表情に、小雛は困ったように笑った。




(なんて顔してんだか…こんな顔させたのは、私のせいだよね)




小雛はゆっくり立ち上がり、三篠の頬に優しく触れた。




「…私言ったよね?三篠の大切なものを護りたいって。
だから私にも護らせて、三篠の大切なものを。
それにジッと待ってるって性分に合わないの」




ニコッと小雛が笑うと三篠は微笑みながらもため息をついて、小雛の手に頬をすり寄せた。




(…小さい頃から小雛を見てたが、いつの間にこんなじゃじゃ馬になったんだか)




小雛の小さい頃から現在を思い出して、三篠は目を細めた。
すると突然頬にあった小雛の手の温もりが消えた。




「…あとは……」


「…お、おい小雛…っ!?」




何かを呟くといきなり三篠の腰に差してあった刀を抜いて、自分の指を斬りつけた。




そして小雛は血が出た指先を、そのまま三篠の開いた口に入れた。
三篠は驚いて口内に流れてきた小雛の血を反射的にゴクリと飲み込んだ。




「…三篠のことも護らせてね…?」




三篠はこの言葉で、小雛は自分の血を三篠に飲ませることで妖力を上げようとしているのだと理解した。