「…そうです!
大事な鵺姫であるあなたをお連れすることなど許すわけないでしょう!」


「それにあんたは戦えない。
何もできない人間が戦場に行ったって、足手まといになるだけよ」




六臣の中でも特に強く反対したのは、桔梗と氷雨だった。




紅葉は怒っている三篠や桔梗達を見て、止めた方がいいのかどうしようか慌てている。




だが小雛の表情は変わらなかった。
まるでこうなることが分かっていたように冷静だった。




「…確かに私は戦えない。
でも千里眼の力で敵の数や位置を特定できる。…とは言ってもこれくらいしか出来ないけど。
それでもここの王である三篠がここを離れるよりはいいと思うの」




小雛の言葉に皆、何も言い返せなかった。




「もし三篠がいない間にここも襲われたら…?
いくら冷静沈着の三篠の右腕の桔梗さんがいたとしても、王である三篠はいない。
それだけできっと混妖達は混乱してしまう。
王は自分についてきてくれるみんなを護るのも役目、違う?」


「……」




三篠を真っ直ぐに見つめる小雛の瞳に捉えられ、三篠は目を逸らすことが出来ない。
小雛の瞳には三篠がしっかりと映っている。




沈黙の中、それを破ったのは氷雨だった。




「仮に三篠様がここに残るとしても、代わりにいくのはあんたじゃない。
あんたの千里眼がなくたって……三篠様?」




氷雨が言い終わる前に、三篠は氷雨の前に手を伸ばし止めた。




氷雨は眉をハの字にして三篠を見上げた。
三篠は氷雨の方を見ずにずっと小雛を見ていた。




「…紅葉、小雛と共に胡蝶ノ国へ行け。
小雛が傷一つ作ることなく護り抜け」


「しょ、承知しました!」




三篠のまさかの決断に驚いた紅葉だったが、三篠の命令にすぐに承諾した。
驚いたのは紅葉だけではない、この場にいた小雛も含めた全員だった。




「…ちょっと三篠様、アンタ正気かい!?胡蝶ノ国は今…「悪い、小雛と二人にしてくれ」




瑠璃葉が言ってる途中で三篠は小声で、だが有無を言わさないように言った。
戸惑っていた六臣だが、これ以上何も言わない三篠を見て静かに部屋を出て行った。




氷雨が襖が閉まる前に見た三篠の背中は、感情を抑え込んでいるようだった。




(…なんで…なんであんな無力な人間が鵺姫で、三篠様の隣にいるのよ…!)




氷雨は目つきを鋭くして三篠の背中と驚いた表情で固まる小雛を睨み、襖は閉じられた。